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製品インプレッション AVアンプ
新川崎生まれのAVアンプの集大成Pioneer SC-LX89 オンキヨー&パイオニアテクノロジー(株) 第1技術部第1開発技術グループ 技術1課平塚 友久 氏
パイオニアの最高峰モデルが刷新。DTS:X対応(バージョンアップ)のほか、Wi-FiやBluetoothによるワイヤレス高音質再生といった機能アップだけではない”本当の”進化ポイントを、 開発担当エンジニアに訊いた。

「常に理想のイメージを掲げ、できあがったモノとのギャップを埋める努力を積み重ねてきました」

SC-LX89は、そんな平塚氏の集大成である。SC-LX90以来クラスDにこだわって磨き上げてきた「ダイレクトエナジー HD」は、回路の見直しとともに、提携先のルビコン社と心臓部に遡って帰還回路の時定数を決める部品まで追い込んでいる。 そして今回、ドルビーアトモスに加えDTS:Xにも対応。立体音場再生能力の底上げが図られた。

「この一年で市販されたアトモス収録ソフトでチューニングできたのが大きいですね。『アメリカン・スナイパー』のチャプター5、ヘリが飛んでくるシーンの現場音は、いままで聞こえなかったサウンドの宝庫です」

それは、物量投入による凄みというよりも、総合的なSN向上と各チャンネルの繋がりのよさが奏功しているという。

長年の努力が巡り合わせた、
理想の部品

まず、7.1.4のデコードを可能にする新設11.2chプリ部分に注目しよう。

「シンプルisベストと考えれば、2ch増えることでハードルは高くなります。それを跳び越して進化するために、DACのチャンネルアサインを工夫し、回路の配列は基板の重なり含めて3次元で解析しています。『基本設計』→『構造設計』→『チューニング』という開発手順のうち、『構造設計』をきちんと詰めたおかげで、徒に『チューニング』で技巧を凝らすことなくイメージ通りの音を出せました」

年々改良を積み重ね、残された課題は明らかになっていた。今回の改良では、とくにデジタル回路で、既存部品では十分でなかった各部品を協力メーカーと開発・搭載できたのが大きい。

ひとつは「シールドDC/DCコイル」だ。提携先に2~3年前から解決を打診していたが、実は銅のケースを被せたものがすでに製品化されていたことがわかったのだ。

「そのサンプルを使ったところ、ひっくり返るぐらい良くなって。部品コストは5倍ほど跳ね上がるのですが、必要な5系統すべてに採用することにし、ギリギリ生産に間に合わせました」

また、デジタル基板全体のノイズを効果的に抑える音質用低インピーダンスのポリマーコンデンサーの効果も大きかったという。ノイズが抑えられることでSNが良くなり、これまで埋もれていた音が浮かびあがってくる。すると、ハイレゾやアトモスの音声に含まれる気配まで伝わってくるのだ。

一方、クラスDパワーアンプ部にも革新的な「新型カスタム電解コンデンサー」が採用された。かねてより、B電に使われている電解コンデンサーに改良の余地があると平塚氏は睨んでいた。「原因はコンデンサーを作る際の水質を改善できなければ難しいと考えていました」というほどシビアな世界で、半ば諦めつつも提携先の担当者に相談する。すると、20年来のつきあいで平塚氏同様、自ら楽器も演奏する無類の音楽好きな彼がある日、「材料も水も同じだが作り方を工夫したのでぜひ同席試聴をさせて欲しい」とサンプルを持ってきた。これがぐんと音質を押し上げたのだった。

SC-LX80番台の集大成

このように、基本的なノイズ対策をやり尽くし部品と回路の良さを引き出したのが、SC-LX89のいちばんの価値である。

「マルチチャンネル再生の3要素は『定位感』『移動感』『包囲感』です。きちんとファントム再生できなければ、『定位感』は出せません。単なる雰囲気ではなく、リアルな音が作り出す臨場感や気配に注目していただきたいと思います」

自動音場補正機能 MCACC Proによる「時間軸」と「位相」の管理により、チャンネル数が増えてもソースに盛り込まれた音は明確に再生したいという平塚氏の想いは、開発のリファレンスであり続けた新川崎の試聴室自体をも立体音響研究のために作り込ませた。SC-LX89はここでチューニングされた最後のフラグシップとなる可能性が高い。平塚氏のジャンルに拘らない柔軟な発想と誠実な人柄が結んだ人間関係の集大成、それがこのモデルだ。

進化ポイント
Key Device1
シールドDC/DCコイル
これまでの閉磁タイプでは十分でなく、提携先に2~3年前から解決を打診していた。しかし実は、銅のケースを被せたものがサイズは異なるものの、製品化されていた。ハイエンドのデジタルカメラでセンサーがキャッチした微弱な信号を増幅するときに使う電源が発生するノイズを抑えたパーツだ 。
シールドDC/DCコイル
Key Device3
新型カスタム電解コンデンサー
B電に電解コンデンサーは2カ所で使われているが、そのうちの一カ所、2,700μFの部品6個に改良の余地ありと考えていたが、従来品をトータルで超えることはなかなかできなかった。MOSのドライバー直近に搭載する電解コンデンサーの品位はとても重要で、新型はぐんと音質を高めた。
新型カスタム電解コンデンサー
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