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ハイビジョン大画面時代の『映画+気分の探求』其の一

TEXT:堀切日出晴

 ハードウエアとソフト・コンテンツは鏡像関係にある。どちらか片方だけが秀でていても、高品位なオーディオ・ビジュアルの世界は築けない。とりわけハイビジョン時代が訪れて、今まで以上にソフトに大きな期待がかかる。ここにお届けするのは、さまざまなソフト・コンテンツを中心に贈るハイビジョン大画面時代を楽しむA to Z。今回より開幕です。

高画質・高音質のメディアの最先端がレーザーディスクであった頃、100インチ超級の大画面再生を高品位に実践するとなると、それはそれは高価なシステムが必要であった。やがてDVDの時代が到来。テレビ放送はと言えば半世紀に及ぶSD放送に終止符を打つようにデジタルハイビジョンの波が押し寄せる。映像機器の性能も格段と向上し、少ない予算でも高品位な大画面再生を楽しめるようになった。

LDからDVDの時代を懸命に駆け抜けてきたオーディオ・ビジュアル世代、映画でいうところのオールドファンならば、ここは天国かとも感じ、胸しめつけられることだろう。

老いも若きも飛び込んだハイビジョン・ワールド。そうしたやるぞの想いを後押しするかのように、この2月、ハイビジョンの世界が動いた。BDとHD DVDに分かれていたHDフォーマットだったが、ここにきてHD DVDが離脱。これによりBDに一本化。HD DVDを支持していたユーザーにとっては残念なことだろうが、ユーザーの混乱を回避したことにおいてとても大きな出来事であった。これによって、日本で停滞していたBDパッケージソフトのリリースにも拍車がかかる。

 

喜びが掛け値なしの本物になる

 日本は世界屈指のデジタルハイビジョン大国である。番組は多岐に渡り、クオリティは高い。これほど多くの上質なハイビジョン映像が毎日空から降り注ぐ国はない。高品位なハイビジョン大画面時代を楽しむために、これを利用しない手はないだろう。ハイビジョン大国であると同時に、優れた録画・記録文化を持つ日本。さまざまな録画メディアの歴史を経て、近年ではハードディスク・レコーダーの普及により大量の作品を録画し、別のメディアに記録し保存する。こうした地道な作業を面倒や苦と思わない、美しい国民性を持っているのだ。そしてBDレコーダーの登場で、録画・記録・保存、そして再生の喜びが掛け値なしの本物になる。

 

 充実を魅せるデジタルハイビジョン放送

 今までBSデジタル放送ではNHKのBS-hiが高転送レートで抜きん出てたが、昨年末からWOWOWと他民放系BS局も同等の24Mbpsにステップアップ(日テレは昨年4月)。さらにBS(BS10)に移行したスター・チャンネルHV(15Mbps)が加わり、ハイビジョン大画面時代の放送コンテンツは早春の花盛り。 

2001年宇宙の旅

良質なマスターを得た時のBS-hiのインパクトは強烈だ。放送作品数が少ないのは残念だが、厳選されるプログラムには感心させられる。昨年放送されたキューブリックの「2001年宇宙の旅」の映像など、米国盤BDやHD DVDと比較しても大きな遜色がないばかりか、こと解像感においてはパッケージソフトを凌駕するインパクトを持っていた。映像圧縮のコーディクが新世代VC-1のBDやHD DVDに対し、BS-hi版は従来通りのMPEG-2。まだまだやるな、MPEG-2である。輪郭を縁取るシュート弊害が気になるショットも散見されるが(BD/HD DVDも同様)、オールドファンも涙するハイビジョン大画面時代を象徴する放送であり、映画の気分、充実感を溢れさせたのだった。

 転送レートに余力が出たWOWOWも素晴らしい。たかが20Mpbsからの4Mpbsアップと思うなかれ。使用するマスターの品質に定評があるWOWOWだけに、その余力が映画や音楽を押し上げ、まさに第一級のものとして観せてくれる。ちなみに2月の極上放送で、国内でHDパッケージソフト化されていないものを放送順(初放送)にズラリと並べてみれば、「バード」「スネーク・フライト」「今宵、フィッツジェラルドで」「フランス軍中尉の女」「麗しのサブリナ」「フォー・ウェディング」「慕情」「ホット・スポット」「キング・オブ・コメディ」「ツォツイ」「クンドゥン」「ミーン・ストリート」「ラ・マンチャの男」「ボビー」「ニュー・シネマ・パラダイス(3時間オリジナル完全版)」「海の上のピアニスト」と、あれやこれや新旧取り混ぜてその絵が目をとろけさす。 しかも以前放送された同じ作品に関しても違いが出る。オスカー特集で放送された「バージニア・ウルフなんかこわくない」など好例だ。

バージニアウルフなんてこわくない

60年代後半から70年代を代表する撮影監督ハスケル・ウェクスラーの、あの深い黒に支えられた暗部の階調が魅せる怖さ。その描写力、映像情報量は明らかに1月の放送が上回る。これでベストと思いきや、さらなる魅力が見えてくる。それが精緻な描写の差異に現れればなおさらだ。これもまたハイビジョン大画面再生ならではの醍醐味であろう。

 

日本の魂、その活動写真こそ大画面で

今や劇場公開の主役を担う邦画群。BS各社も日本映画のプログラムに熱が入る。BD化される予定も見えぬ作品ばかり。おっと、これならオールドファン、ぐっと身を乗り出すに違いない。BS-hiの伊丹十三作品集。「マルサの女」に始まる女シリーズを連続放送。以前のWOWOW放送を観逃した人には大好評。そのWOWOW、正月から吉永小百合を特集した。「キューポラの街」「潮騒」「うず潮」という定番から、「大空に乾杯」「花ひらく娘たち」といったちょっぴりカルトなプログラム・ピクチャーまで。これがまた美味しいハイビジョン映像で、自宅で小百合さん、お美しい手でBDレコーダーを操作しながら「きれい!簡単!私にもこれなら使える」と言ったとか。 監督や俳優の特集企画が目白押しのWOWOWだが、とりわけ極端シネスコ映像の日活スコープで蘇った「紅の拳銃」は、その日活色彩絵画の美麗さ、得体の知れない無国籍映画ならではダイナミズムで近年一番の大収穫。

 キューポラの街

3月の小林旭の渡り鳥シリーズも胸躍らせたプログラム。しかも、総は簡単にパッケージBDソフト化されそうにない作品ばかり。手元に置く貴重な日本映画のハイビジョン。これを大画面で観る。食す。映画通にはたまらない。

紅の拳銃

そんな映画通をさらに唸らせるのが、昨年9月にCSのスカパー!で開局した日本映画専門チャンネルHD。映像圧縮方式はMPEG-2TS、AAC5.1ch対応、およそ15Mbpsの帯域を持つ(地上デジタルとほぼ同等)。フジテレビ、東宝、角川映画などの共同出資による会社ゆえに、日活と東映作品はちと疎遠となるが、放送される作品はすべてハイビジョン。黒澤明、溝口健二、成瀬巳喜男、新藤兼人から先日逝去した市川崑作品。さらに衣笠貞之助や伊藤大輔らが活躍した大映京都時代劇の数々、東宝人気シリーズやATG作品群から最新日本映画まで、まさに邦画の絢爛、ここにありだ。また、3月の特集「女優、二十歳の頃」のように、新旧人気女優(原節子、高峰秀子、若尾文子、吉永小百合、加賀まり子、秋吉久美子、山口百恵、薬師丸ひろ子、宮崎あおい、長澤まさみ)の二十歳の代表作を放送する粋な企画も登場する。さらには「大魔神」シリーズ完全放送。これも嬉しい胸ワク企画。

 

責任という名の映画への良心

放送に対する視聴者の不安は、その品質に対する責任の所在が見えてこないことだ。しかし日本映画専門チャンネルHDはその所在を明確にする。なにより注視するべき点は、オリジナルネガやマスターポジに戻りHDテレシネを行い、可能な限りの修復作業を経てオンエアされていること。ネガは特殊処理で洗面・回復。モノクローム作品のHDテレシネにはプリントを使わず、良好なレゾリューションが得られるマスターポジを使用する。なぜなら上映用プリントは、ガンマを立て気味に設定しているからである。作業の中心となる東京現像所は、デジタイズから加工、出力までの工程をフルデジタルで行うデジタルインターミディエイト(DI)の作業が行える数少ないラボである。ここで、時には監督や撮影監督監修のもとに色補正等のカラーグレーディングや、傷痕や塵の除去・修復作業が行われ、来るべきHDディスク化をもゴールに考えた作業が行われるのである。
 修復作業と言えば映画アーカイヴの老舗クライテリオンを思い浮かべる人も多いだろうが、日本映画専門チャンネルHDは映画に対する責任という名の良心を感じさせてくれるのだ。こうして修復されたマスターでもMPEG-2変換時に、どうしてもフィルムグレイン等がMPEGノイズに化けてしまうことがある。動きが早い映画ならなおさらだ。しかし良質なマスターはその症状も軽く、高度なノイズリダクションを搭載したBD再生機器等と組み合わせることで、まさしくフィルム感覚のハイビジョン大画面再生が可能となる。

 

みる。見る。とにかく数多くの作品を観る。

録画容量は大きいに越したことはない。とにかく録る。そして観る。この貪欲さが作品の目の肥やしとなり、ハードウェアを見極める助けとなる。加速して来襲してくるBDパッケージソフトへの眼力ともなる。パッケージソフトはユーザーに1作品ずつお金を出させるのだ。その責任は重く、同時に放送コンテンツを寄せ付けないくらいの凄味が必要だ。

例えばBDパッケージソフトのために、「アラビアのロレンス」(待機作)や「ブレード・ランナー」のSFX部のような65mmリソースを4K×2KでDIし、2K×1KでBD化した映像。35mm素材であればDI処理が2K×1Kでも大きな差はないのだが、65mm素材の保持する映像情報量が大きな差異となって表れる。

ブレード・ランナー

ゾディアック

BDリリースを表明したユニヴァーサルやパラマウント。そのパラマウントのHD DVD「ゾディアック」がBDでどんな凄味を魅せるのか。撮影はViperフィルムストリームカメラ。HD/RGB4:4:4で出力する映像信号を非圧縮データのままレコーダーに記録。カラーコレクション機器との組み合わせで高品位な映像表現を可能にしたのだが、パラマウントは驚異のダイレクト・デジタル転送盤に仕上げて魅せた。異様な解像感と高S/N。独特なタッチで和らげられた画調。ディテイルには乱れひとつない。新世代の映像の登場か。


こうしたあの手この手の映像に、予想を超えたサウンドの驚きが提供され、そのバランスの中にこそハイビジョン大画面再生の醍醐味がある。この話の続きはまた次回。生粋のオーディオ・ビジュアル人のための、ハイビジョン大画面時代の映画+気分の探究は始まったばかり。お楽しみはこれからだ。

 

 

Profile
ほりきり ひではる・1958年生まれ。映画製作、イベント・プロデュースの現場を経て、映像ソフト・ライターに。海外盤をこよなく愛し、集めたLD、DVD、HDディスクの総数は16,000枚を超え、デジタル・ハイビジョンコンテンツのヘビーチェッカーでもある。海外盤への愛情、薀蓄は他の追随を許さず、海外に広がる映像コネクションは広くて深い。熱狂的マックイーン・ファンとしても有名。Hivi誌での海外盤レビュー等を連載する。